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横須賀オン・マイ・マインド

(横須賀のタウン誌 「朝日アベニュー」に毎号連載中のショートエッセイをそのまま掲載しています。)


第161回 スイングジャズの復活
 ジャズはスイングジャズからモダンジャズ、モードジャズへと移行し現在では更に進化しつつある。しかしどうも行きつく所まで行ってしまったようで余り活発な動きはない。そうした中、ここにきてどうやら古いスイングジャズが復活の兆しを見せている。
 その顕著な例としてニューヨークではスイング系のジャズコンサートが盛んである。その理由は3つある。一つは若い人たちにとって50年前のスイングジャズが新鮮に感じられる事、スイングダンスが復活した事、更にスーパースターの登場である。
 特筆すべきはスーパースターのことだ。ブリア・スコンバーグという女性トランぺッターの人気がすごい。楽器が上手いだけではなくプロデュース能力にも長けており、もう1年先まで予約で一杯である。数年前関西のジャズフェスに来日したがまだ日本では余り知られていない。
 ニューヨークジャズフェスではオールナイトで2日間ぶっ通しだが出ずっぱりだ。司会から楽器演奏、歌まで歌う。しかも“若くて美人”である。3拍子も4拍子も揃っている。こうしたスーパースターに触発されて若手のプレーヤーが続々登場している。誠に頼もしい限りだがこうした動きが日本に伝わるのはまだちょっと先なのかもしれない。

第162回 “サクスビクス”のススメ
 ある老人ホームでリーダーの指示のもとに太鼓をたたいて運動する“太鼓ビクス”を取り入れた所、非常に若返り効果があったそうである。その秘訣はバチを振るう軽い運動とリズムをとるという右脳への刺激が程良い効果をもたらすためだそうだ。
 そういう事であればサックスを吹くことによる“サクスビクス”はどうだろうか。サックスを吹くことは太鼓を叩いてリズムを取るよりも指を動かすことにより更に右脳を強く刺激する。それに加えて肉体的には心肺機能の向上や腹筋の強化が同時に得られるのだ。
 “太鼓ビクス“ではリズムをとるという行動と運動が結びついて効果が上がるわけだがサクスビクスでは更に唇の周りの筋肉の強化によるしわ防止や歯の刺激に寄る歯茎の強化など美容健康効果も期待できる。老人ホームだけではなく、若い女性にも魅力的だと思う。
 しかしこうした効果は宣伝次第、指導者次第だろう。若いチャーミングなインストラクターが効果を提唱すればサクスビクスの生徒は増えるかもしれない。いずれにせよ残念ながらジジイのインストラクターでは何をやっても徒労に終わるのは明白である。

第163回 型から入れ
 良くプロスポーツを観ていると構えて立つた時から何となく風格を感ずることがある。力が抜けているのにどっしりと隙がない。それに引き替えアマチュアはどこか力が入っており、動作を始めると必ずフォームを崩す。パワーや力以前の問題として形が違うのだ。
 それと同じことが音楽の場合にも言える。最近はユーチューブなどでプロの演奏スタイルを目の当たりにできる。しかし私が楽器を始めた頃はテレビでは観られなかったので時々来日したミュージシャンを観てステージに出てきた時の姿を瞼に焼き付けて参考にしたものである。
 楽器の場合、勿論先ず技術の訓練から入るのは当たり前のことであるがこうした“型の差”を実感し、時には真似てみることも必要ではないか。私のレッスンルームの壁には全身を写せる鏡が付いており、時には生徒をその前に立たせて演奏する姿勢や力の入れ方をチェックする。
 一番肝心なアンブシュア(吹くときの唇の形)も自分で唇や喉の形を確認することがとても大切である。型は言われてみれば分かるのだが中々自分では気づかない点が多い。初心者に対しては譜面より先に演奏する時の型を教え込むのが最も重要ではないかと痛感している。

第164回 バンドのマーケティング活動
 マーケティングとは「顧客ニーズを的確につかみ、販売促進努力を通じて(中略)市場開発を推進する企業活動」のことを言う。(大辞泉より)バンドもある意味では演奏を通じて顧客(聴衆)の満足度を高めて支持(収益)を得るという意味ではマーケティング活動が必要である。
 それには先ず自分たちの実力と方針を明確にしておく必要がある。市場で言えば我々はニッチ(隙間)を狙う零細企業である。であるからにはそれなりの販売戦略が必要となる。大手ブランドメーカー、つまり有名なメジャーアーティストとは選曲や音楽の方向性も当然変わってくる。
 所が周囲にはこのことを理解しないバンドが非常に多い。形だけメジャーな行き方を真似て自分たちの特性を忘れているのだ。例えば大御所のマイル・スデヴィスを真似てステージ上で曲目も言わずいきなり観客に背を向けて延々と演奏する。それはマイルスだったら許せるが一般のマイナーバンドが決して真似てはならないステージマナーの基本である。
 このエッセイでも何度か取り上げたが独りよがりの選曲や客のリクエストだけに頼って選曲するなどは避けるべきであろう。今ジャズは斜陽であると言われているがこういう態度では斜陽は当然だろう。一応ミュージシャンの片割れとして最低限のマーケティング活動を行うことによって、ライブでの閑古鳥は極力避けたいものである。

第165回 ミュージシャンと体力
 ライブ活動と言うのは意外と体力を要する。大体ライブが行われるのは夜であり、終演後帰宅は終電間近になる。ましてや重い楽器を抱えているので満員電車では肩身の狭い思いをしつつ帰宅する。しかも連日のアルコールで不規則な食生活により生活習慣病にも脅かされる。
 知人の年輩ミュージシャンの中には最近転倒などによる怪我人が続出している。かくいう私も飲んで帰る途中楽器を担いで転倒したこともある。腰痛に悩まされているプレーヤーも多い。またミュージシャンの生活習慣病の割合は一般の人に比べてかなり高いのではないかと思う。
 昔私がジャズを始めた頃、六本木で練習しているとミュージシャンの中に「走ろう会」と言うグループがあった。彼らは「ミュージシャンは体力が必要」という事で練習前に六本木の街を走るのである。その当時は何やっているんだろう?と半ばあきれてバカにしたものだが今思えば至極尤もな活動だったと言える。
 「運動なんて百害あって一利なし」と否定的な見解のミュージシャンも数多くおり、それはそれで分からぬわけでもない。ただ、周囲に病人やけが人のプレーヤーが続出するとやはり体力作りは必要ではないかな・・・と痛感する今日この頃である。

第166回 ダンスとジャズ

 ダンスと音楽は切っても切り離せない関係にある。クラシックではバッハ、モーツアルトの時代からワルツ、ポルカ、メヌエット等など皆舞曲が基礎にある。交響曲のような鑑賞型の曲が中心になってもウィンナワルツのような形でダンス音楽も長く残ったのである。
 ジャズでも同様なことが言える。初期のジャズはダンスとは深くかかわりあってきた。特にスイング時代はビッグバンドをバックにダンスをすることが大流行した。しかしチャーリーパーカーやディジー・ガレスピー等によりバップがジャズの主役となり、ダンス音楽は次第に衰退していった。
 所が最近再びダンス音楽が復興の兆しを見せている。デキシーランドジャズやスイングジャズのバンドが復活し、彼らの演奏の前では多くの人がそれに合わせてダンスに興じる姿も珍しくなくなった。ダンスは人間の欲急であるから場と音楽さえあれば復活するのは自明の理である。
 私がジャズに最初に触れたのは大学のデキシーランドジャズ・バンドでありダンスパーティでテナー担当の私は見よう見まねでアドリブを模索しているうちにいつの間にかジャズに没頭していた。ダンス音楽演奏で得た収穫は常にスイング感のある演奏を心掛けた事である。私は今でもジャズとは「スイングすること」が第1と心掛け、踊れる音楽を意識している。 

 

第167回 ジャズ漫画「ブルー・ジャイアント」
漫画の世界にもジャズをテーマにした作品が遂に登場した。ビッグコミック誌に連載されていた「ブルー・ジャイアント」という漫画である。昨年のコミック単行本の売り上げ第5位と言うから大した人気漫画である。
 主人公は仙台に住む高校生で、独学でテナーサックスを学び、一歩一歩悩みながらも進歩を重ねていく。週刊コミック誌は毎回ストーリーが完結する形を取るため全体的には一貫したストーリーはないが河原での練習、先輩ミュージシャンとの出会い、ライブへの挑戦、そしてほのかな恋などが多彩にちりばめられている。
 作者の石塚真一氏はアメリカに留学経験があるが音楽大学ではない。漫画は28歳の時に「漫画の描き方」と言う本から勉強し始めて漫画家として認められてきたという苦労人である。主人公のジャズへの取り組みもそうした経験に裏打ちされている。ウェイン・ショーターや上原ひろみとの対談もしているところを見るとかなりジャズへの造詣も深いのだろう。
 素直な感想であるが確かに作品的には注目に値するのだが私は漫画そのものに素直に入り込めないもどかしさを感じた。何だか飛び石の上をふわふわ歩いているようで本を読むというより観たという感じである。やはりしっかりと文字を追って行く読書じゃないと頭が受け付けないのだ。













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